★複雑なじぶんの気持ち。 |
「納得出来ません!」
机に叩きつけるように、両手をついた。手の痺れは、不思議と感じなかった。 片耳を微かに伏せ、口元に苦笑いを漂わせるとボスは言った。 「そう、がなるな、宝児。もう、決定したことだ」 ボスの感度のいい耳に、宝児のヒステリックさが加わった声は少々攻撃的だったらしい。無意識に片耳が伏せたままになっている。 だが、そんな微細なボスの仕草もわからないほど、宝児の目の色はかわっていた。 「納得、出来ません」 拒絶を露にして、己の身を震わせる。 俺はそう言うことでしか、完全に頭に血がのぼった自分の怒りを、表す事が出来なかった。 ★ ★ ★ 「新しいメンバーが、来るんだって!」 司令室に入ってくるなり、無邪気に叫ぶウメコの明るい脳天気な声が、俺にとってメガトン級の爆弾となって耳に飛び込んだ。 朝はシャワーを浴びてきても、低血圧の体質はそう簡単に改善される事はなく、午前中はうっすらと霞がかっているのが通常の頭は、その言葉で一気に晴れあがった。 何だって? 「本当か、ウメコ?」 ウメコに駆け寄り、持っていた報告書は盛大に辺りに散らばったが、俺はそんなことにすら意識が向かないほど動揺し、ウメコを睨んでいたらしい。 「ホージ、眉間に皺! 何、ウメコを睨んでいるのよ? ほら、ウメコが涙ぐんでいるじゃないの」 ジャスミンの冷静に叱咤する声で、我に返る。 「す、すまない。ウメコ」 「ん〜、私、なんか悪いことしたぁ?」 彼女の零れんばかりの大きな目には泪が広がって、俺を恨めしげに見上げている。 普段はレディファーストを心掛けているだけに、自分でも自分のしてしまったことにも動揺していた。 「いや、びっくりして……」 「もう、人事で聞いてきたから、早く皆に教えてあげようと、総務から一生懸命走ってきたのに!」 ウメコは小さい身体で、不満を目一杯表現する。確かに、総務のあるフロアーは、この指令本部からは遠い。よく見るとウメコの小さな額にはうっすらと汗が滲んでいた。 「すまない。許してくれ」 ウメコに、深々と頭を下げる。 「あたし、お風呂、入ってこようかなぁ」 俺の力ない言葉は彼女にとっては贖罪にはならず、ウメコはますます頬を膨らませた。 「あのね〜、仕事中でしょ。勤務時間は、これからでしょ。ほら、パトロール行くよ」 「うわぁ〜ん、ジャスミンのバカぁ」 「仕事サボろうとしても、だめ。ジャスミン、ウメコでパトロール行ってきます」 「いやぁ〜ん(泣)」 ジャスミンに力強く引きずられながら、ウメコは身をもって、ドップラー効果を体現していた。 「いってらっしゃ〜い」 何事もなかったように、和やかに女性陣に手を振ってセンはニコニコと笑っている。 うっ、センいたのか。何の反応も示さないから、すっかり忘れていた。 「なに?」 俺の心を読んだかのように、センはさり気なくこちらに顔を向ける。 邪気のないようなその冷静な顔は表情が読めなくて、正直苦手でもあった。悪い奴ではないんだけれど、苦手だ、センのそんなとこ、は。 「……いや、センは、メンバーの補充のことに、あまり驚いていないみたいだから」 センはウメコの持って来た衝撃のネタに同ずることなく、相変わらずカップに口を運んでいる。 今日は、どんなお茶を飲んでいるのだろう。 香りはさっぱりしたあまり匂いのないモノ、みたいだが。 センは、バリエーション豊かなお茶のネタを数多く有している。紅茶はもちろん珈琲、日本茶、中国茶、エトセトラえとせとら……怪しい雰囲気を醸し出す年齢不詳の喫茶店のマスターなんて、センがデカレンジャーじゃなかったらさぞかし似合いそうな職業じゃなかろうか。 「噂だけは、実はもう小耳に挟んでいたりして(笑)」 ぺろっと、しれっと、言い放つ。 その言葉に、俺は疑いもしなかった。 そうかもしれない。センならありえる。 すごく、ありえる。 「そうか、それならな……」 「でも」 センは女の子のように、ちょこんと首を傾げる。 「でも?」 「欠番のレッドは、いつかは補充されると思っていたし、至極、当たり前のことだよねぇ?」 そう。 地球署に配属されるデカレンジャーは、5人。それは、あらかじめ決められた配置人数だった。 俺はその何気ないセンの言葉に曖昧な表情で、頷く事しか出来なかった。 でも。 そのレッドは密かに自分が狙っていたポジションで、なれなかったことにショックを人知れず受け、ようやく回復しつつあったというのに。 どうして、今更、その“レッド”に知らない誰かが、すんなり入ってしまうのだろう? 自分ではない“誰か”がそのポジションに入り、自分の、自分たちのパートナーとしてこの先何事もなくやっていかなければいけないなんて。 拷問、だ。 「楽しみだよね。どんなヤツが、来るんだろう」 俺の千箇に乱れる心などわからないセンのごく普通の声が、心に刺さる。 俺は、お前みたいにお気楽ではいられない。 そう、どこか楽しんでいる節のあるセンにはわからないだろう。自分のポジションに不満など感じていないだろう、奴には。 もしかしたらセンはすでに名前も姿も経歴も、知っているかもしれない。でも動じることなく、どこか楽しげでその様子は余裕すら感じられる。激しい動揺を隠しきれない俺とは、大違いだ。 言葉で返事を返す気力もなく、俺はなけなしの気力で浮かべた笑みをやっとのことで返し、散らばった書類にようやく意識を戻し、のろのろと手を伸ばした。 でも、何かはしないと自分の気は治まらないと心の中で感じながら。 Next week? (C)水希 水音 |
言い訳? というかあがき。 ★ ★ ★ ★ ★ これが、6月のCityで無料でお配りしたものです。 友人に渡そうとふと見たら、『きゃ〜プリントミス〜(泣)』でした。悔しいので、WEBアップ。 この続きはのちほど形にいたします。だってまだ、エピローグもエピローグなんですもん(;O;) イベント配布終了★ お帰りの際は、ブラウザで戻ってくださいませ。 本にする際はもちろん、推敲いたします。予定は未定ですが(^_^;) 2004/07/08 23:38 |